KEY POINTS(後編)
- BtoBブランディングには3つのアプローチがある。1)リクルートなど広く企業イメージを訴求するのか、2)顧客ニーズにアピールするのか、3)技術力を訴求するのかの3つだ。ブランディングを成功に導くには、自社の置かれたポジションと課題をもとに、目的を明快にした上でプロジェクトに取り組むことが求められる。
- オンラインメディアの発達によってブランディングは露出という「量」の勝負から、イメージやコンテンツを含む「質」の勝負へと移行しつつある。このことは多くのBtoB企業にとって機会である。「質」を高めるためには、「ブランドスタイル」の確立が求められる。
- 自社目線での強みの訴求では顧客には何も伝わらない。際立ったポジションを「受け手(顧客)」の記憶に残すべき。デザインはBtoBブランディングの鍵を握る。
CONTENTS(後編)
Part 3. BtoBブランディング、3つのアプローチ
I. コーポレートブランディング
II. ソリューションブランディング
III. 技術ブランディング
Part4. BtoBブランディングの進め方
I. 何をブランディングに期待するのか?
II. ポジションを定める
III. 鍵は、デザインにある。
IV. BtoBブランディングのステップ
Part 3. BtoBブランディング、3つのアプローチ
BtoB企業にとってのブランディング(前編)にて示した通り、BtoB企業にとってブランディングの重要度は近年増加傾向にある。機能や商品群の紹介だけではなく、顧客との「心理的な絆」づくりを進めることで、価格競争のリスクを軽減させ、競争力のあるブランドイメージを獲得していくことがBtoBブランディングの狙いだ。ブランディングの施策は、その実現に向けて、広告、マーケティング、PR、営業など、それぞれの特性をもった手段を組み合わせることによって進められる。
BtoBブランディングのアプローチは、次の3つに類型化できる。
- コーポレートブランディング:企業イメージの訴求と共感醸成を目的としたアプローチ
- ソリューションブランディング:顧客ニーズへのアピール目的としたアプローチ
- 技術ブランディング:特定分野における技術の差別化を目的としたアプローチ
I. コーポレートブランディング
BtoBブランディングの1つめのアプローチ「I. コーポレートブランディング」は、訴求対象を限定せず企業としての「印象」を訴求し広く共感を促すことが狙いである。(Chart 8参照)商取引における具体的なソリューションよりも、企業ビジョンやコーポレートメッセージが強調されることが多い。
*チャートに示したブランドプラットフォームとは、ブランディングを進める上での訴求内容の階層のことを示す。力点を置く階層は目的によって異なるが、それぞれの階層が連動したロジックを形成することでブランディングの効果が高まる。
コーポレートブランディングは、かつてはタレントやゆるキャラなどを起用し知名度を高め共感を促す手法が多かったが、SDGs(※注6)など企業の社会的責任が重視されている近年では、社会貢献や環境への配慮などを含めた企業としてのビジョンや企業姿勢を訴求することで共感を促すケースが増えている。
コーポレートブランディングは、海外よりも日本のBtoB企業に多くみられるようだ。具体的でアグレッシブなメッセージを示すよりも、例えば、「〇〇を通じて社会に貢献します」「Beyond 〇〇」「Innovating 〇〇」といったメッセージで、抽象的な表現で共感を促すケースが多くみられる。コーポレートブランディングの代表的な事例として、日立製作所の「日立の樹」、富士フィルムの「世界は、ひとつずつ変えることができる。」の企業広告が挙げられるだろう。
日立製作所のケース
日立の樹オンラインによると、1973年にスタートした「日立の樹」のテレビCMは、46年間にわたって展開(2019年現在)されている。時代背景によってトーンは変わっても、長期間にわたって継続することで日立のブランドイメージに大きく寄与していると推察される。このCMが日立のポンプや産業設備の販売に直接的につながることはないだろうが、幼少期からこのCMに触れ日立に入社を希望した人や、どうせ発注するのだったら日立のポンプや産業設備にしようと考えたBtoBの購買者の数は少なくないだろう。同社の社員の求心力としても機能しているはずだ。
Credit:”株式会社日立製作所” http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2005/02/0201a.html
富士フィルムのケース
富士フィルムの企業広告「世界は、ひとつずつ変えることができる。」は、自社の研究者によるメッセージをシリーズ化し富士フィルムのブランドイメージを訴求している。この広告もビジネスに直結されるものではないだろうが、富士フィルムのブランドイメージに大きく寄与していると推察される。商取引の場面での信用力はもちろん、リクルート効果や社内のモチベーションを高めるインターナルブランディングという意味でもその効果は大きいはずだ。
Credit:”富士フィルム”http://and-fujifilm.jp/
この2つの事例は(両社ともBtoC事業を抱えている企業体であることもあり)豊富な資金力を背景にマスメディアを使った企業広告を軸としたブランディング手法である。
マスメディアを使った企業広告にはそれなりの投資額が必要となるため、どの企業も真似できるという訳にはいかないだろう。そもそも、多くのBtoB企業にとって、ブランディングに関わる露出媒体はWEBサイト、展示会や冊子類など限定的であるケースが多くマスメディアを使うのは非効率である場合も少なくない。
メディアの露出(量)の勝負から、ブランドスタイル(質)の勝負へ。
情報メディアの比重がマスメディアからオンラインメディアに移行したことは、それまでマスメディアとの接点が少なかったBtoB企業にとって、コーポレートブランディングの大きな機会と選択肢もたらした。
マスメディアの広告は露出の量が勝負を分ける。つまりその分コストが膨らむため、BtoB企業にとっては効率的な選択肢とは言えないケースが多い。オンラインメディアはその性格上イメージ(及び論理情報)の蓄積が可能である。オンラインメディアの発達で、マスメディアの力を借りずとも継続したブランドイメージを発信できるようになったことは、特にBtoB企業にとって恩恵が大きい。
ここで大切になってくるのが、「ブランドスタイル」である。オンラインメディアで露出される場面はPCにせよスマホにせよ限られた画面サイズである。限られた画面サイズを使ってブランドを訴求するには(誤解を恐れずに言えば)ロゴでも会社名でもなく、パッと見のイメージだと言っても過言ではない。また、マスメディアでは15秒間視聴者の目線を繋ぎとめておくことが許されるが、オンラインでは3秒以内に興味を喚起できなければ閲覧者にそれ以上の情報を与えることはできない。
様々な場面における「ブランドスタイル」の管理の重要度が上昇していると言えるだろう。「ブランドスタイル」には、管理されたカラーイメージ、一定のクオリティをもった写真や動画などのイメージ、シンプルなメッセージやその企業らしい文体が含まれる。UX(ユーザーエクスペリエンス)への取り組みも重要な要素だ。
「ブランドスタイル」は一度確立すれば、展示会、冊子類、パワーポイントへの転用も可能であり、統一的なブランドイメージを発信できるようになる点も大きなメリットである。
オンラインメディアの発達によって、コーポレートブランディングは露出量という「量」の勝負から、(1つひとつの写真のクオリティを含む)ブランドスタイルの「質」の勝負に移行したと言えるだろう。
II. ソリューションブランディング
BtoBブランディングの2つめのアプローチ「II. ソリューションブランディング」は、訴求対象を顧客に置き企業として提供する「魅力」を訴求することで、新規の取引や既存顧客との取引拡大を図るのが狙いである。企業ビジョンやコーポレートメッセージよりも、顧客ニーズにミートするソリューションが強調されることが多い。(Chart 9参照)
*チャートに示したブランドプラットフォームとは、ブランディングを進める上での訴求内容の階層のことを示す。力点を置く階層は目的によって異なるが、それぞれの階層が連動したロジックを形成することでブランディングの効果が高まる。
特に海外展開の場合は、コーポレートブランディングだけではパンチに欠けることが多いため、顧客に何を(どういったソリューションを)提供するのかということを、端的にかつ印象的に(時にはクールに)演出することが求められる。
インテルのケース
インテルは、ソリューションブランディングを軸においたBtoBブランディングを推し進めている事例の1つだろう。
Credit:”Intel Corporation” https://www.intel.com/
同社のウェブサイトのトップページ(2019年9月)では、「Accelerate Your Data Center With AI Built In. Only on Intel. “AI を組み入れてデータセンターを高速化。実現できるのはインテルだけ。”」と、インテルは顧客に提供する価値が明快に訴求されている。
とはいえ、抜群の知名度と市場シェアを誇るインテルだからこそ、具体的な提供価値にフォーカスしたブランディングができるという見方もできる。知名度が低いBtoB企業では、「具体的な提供価値」を訴求するだけでは、競合との差別化が難しいケースがほとんどだからだ。
“HERE”のケース
一般的な知名度が低いBtoB企業がソリューションブランディングを進めるためには、少々工夫が必要だ。例えば、カーナビなど地図情報ソリューションを提供する”HERE”(本社アムステルダム)は、BtoBにおけるソリューションブランディングの好例の1つだと言える。
Credit:”Here Technologies” https://www.here.com/
“HERE”は、アウディ、BMW、ダイムラーなど欧州の自動車メーカーやインテルが株式を保有する企業だが一般レベルの知名度は高くない。”HERE”は、(インテルのように)具体的な提供価値の訴求に力点を置くのではなく、顧客体験をテーマにし「顧客との心理的な絆」をつくっていくことに力点を置いている。
明快なブランドポジション、統一的なビジュアルの訴求が、”HERE”のブランディングの作戦だと言えよう。
“HERE”は、そのブランドポジションを明快に示している。同社のウェブサイトには”Welcome to HERE -The world’s #1 location platform-“というメッセージがシンプルに示されている(2019年9月現在)。自社のポジションを「ロケーション・プラットフォーム」と定義し、その土俵でナンバーワンだというポジションを印象づける狙いだ。例えば、「地図の未来を創造する」あるいは「地図情報を革新する」といった抽象的なメッセージ(コーポレートブランディングのアプローチ)ではなく、シンプルにブランドポジションを提示している(ソリューションブランディングのアプローチ)している点が特徴的だ。
ビジュアルは、顧客との心理的な絆をつくるために工夫されている。キービジュアルは、例えば、道路や風景など地図を想起させるビジュアルではなく、一般ユーザーの利用シーンを示すことで、地図情報ではなく、エンドユーザーの経験価値を想起させている。解説が難しい(他社との違いも説明しにくい)技術はスペックや他社との違いを訴求するのではなく、その技術が提供する顧客体験を想起させるビジュアルが使用されている。
Credit:”Here Technologies” https://www.here.com/
“HERE”のビジュアルは統一的なイメージを訴求するためにしっかりと計算されている。WEBサイトで公開されている同社のブランドデザインに関するガイドライン(概要編)をみると、「1. In-motion」、「2. Vibrant」、「3. Layered」という3つのデザイン理念(Design principles)が設けられ、画像の選び方から表示の仕方までしっかりと管理されていることが分かる。
“HERE”は、知名度を高めたり広く共感を促すための広告宣伝に投資する(=イメージを拡散させる)よりも、イメージを集中させることに投資した方が得だと考えているようだ。媒体費やイメージキャラクターにお金をかけるよりも、ビジュアルのクオリティやデザインにお金をかけた方が同社のブランディングに役に立つという判断なのだろう。
FISHER TANK COMPANYのケース
更に、一般的には知名度が低いBtoB企業のソリューションブランディングの事例をみてみよう。
FISHER TANK COMPANYは、1948年に米国ペンシルベニア州創業された大型タンクの製造・建設を行うBtoB企業である。同社は、高度な専門技術による設置型ビジネスであるため、取引のほとんどは固定客や口コミによるものだったが、課題であった新規顧客の発掘を目的にソリューション型のBtoBブランディングを導入した。
Credit:”Fisher Tank Company” https://www.fishertank.com/
それまでは企業紹介やサービスについての情報発信を中心に行っていた同社のコミュケーション方式から、自社のポジションを明快に示し、統一的なデザインによってビジュアルのクオリティを高める方式に転換したとう。
FISHER TANKの新しいWEBサイトは、現代的なデザインに一新されたばかりでなく、そのUXは顧客ニーズに配慮された印象的な画像、コンテンツ、構成で形成されており、専門的な業界であるにも関わらずSNSによる情報発信も積極的に行われている。
同社のブランディングを支援したWEIDERT GROUPによると、新しいブランディング戦略の導入後12か月で新規見積依頼は500%増加、約340万ドル相当の新規取引を実現したという。
III. 技術ブランディング
BtoBブランディングの3つめのアプローチ「II. 技術ブランディング」は、訴求対象を顧客に置くことはソリューションブランディングと同じだが、より分野を絞り込み特定分野での自社製品やサービスの「特徴」を訴求する考え方だ。(Chart 10参照)何より重要なポイントは技術(あるいは仕組み)の特徴そのものを説明するのではなく、それらを「ブランド化」することにある。
技術の高度化・複合化が進行した近年、競合他社との自社の技術(あるいは仕組み)の違いを伝えることが難しくなってきている。こうした課題に対する解決策の1つが技術ブランディングである。自社の技術を伝えようと、概念図などを使って詳細の技術紹介をすればするほどどうしても情報量が多くなる。かといって、例えば、「技術の〇〇」「比類なき技術力と開発力」といったメッセージを発しても効果は期待できない。
技術ブランディングは、自社の技術(あるいは仕組み)は、特別な存在であるという擦り込みを行うことによって、技術をブランド化するという考え方だ。具体的には、企業ブランドの下に「技術ブランド」を設定し、印象的なネーミングやロゴや各種のビジュアルやツールを使って自社の技術のブランド化を進めるという施策を示す。
IBM “Watson”のケース
技術ブランディングの事例としてはまずIBMの”Watson”が挙げられるだろう。IBMは、AI領域のビジネスを強化するために”Watson”というブランドを立ち上げ、IBMのAI関連技術のブランド化に成功していると言えるだろう。
Credit:”IBM” https://www.ibm.com/watson/about
IBMは、印象的な名称とアニメーションロゴ、特別感を感じさせるビジュアルや動画などを使って、”Watson”の特別感を演出している。”Watson”というAIを想起させるネーミングも秀逸だ。こうした演出は、「よくあるAIとは違って、IBMが取り組んだ特別な技術なのだろう。当社のビジネスを変えてくれるかもしれない。」といった心理的な絆を醸成するきっかけになっている。
また、その性格上抽象的もしくは専門的な説明になりがちは「AI」という分野において、IBMは”Watson”を「ビジネスのためのAI」とポジションすることで、購買者の心理的なハードルを下げる工夫を行っている。
もし、「IBMのAI技術、それは・・・・」といったトーンでIBMのAIを紹介したとしたら、「じゃあ、他社のAI技術はどうなんだろう・・・」という心理を促すはずだ。IBMは、そうした経済合理性による価格競争を避けるためにも、IBMのAI技術をブランド化することで回避していると言えるだろう。
GRUNDFOS社 “iSOLUTIONS”のケース
技術ブランディングは、IT技術だけではなく伝統的な機械産業でも取り入れられている。例えば、
産業用ポンプの大手GRUNDFOS社(本社デンマーク)の技術ブランド”iSOLUTIONS”もその1つだろう。
Credit:”GRUNDFOS” (WEB動画の抜粋画像) https://www.grundfos.com/campaigns/isolutions.html
産業用ポンプは、信用力を除けば、IT産業以上に技術の違いを打ち出すことは難しいと推測される。GRUNDFOS社は、欧州の製造業を中心に関心を集めている「インダストリー4.0(第4次産業革命)」の潮流を捉え、自社の製品を次世代型というイメージを演出するために、”iSOLUTIONS”という技術ブランディングを進めていると思われる。
Credit:”GRUNDFOS”(展示会イメージ)@ISH trade fair (Frankfurt)https://ee.grundfos.com/about-us/news-and-press/news/grundfos-isolutions-is-ready-to-make-its-mark.html
GRUNDFOS社の技術ブランド”iSOLUTIONS”は、WEBサイト、展示会、冊子類など、印象的なビジュアルや動画を使って積極的に展開されている。
Part4. BtoBブランディングの進め方
I. 何をブランディングに期待するのか?
BtoBブランディングと言っても、知名度や業界内での位置づけを含め、企業によってその課題は様々だ。リクルートの強化、信用力の強化、価格競争からの脱却、インバウンド(新規問い合わせ)の強化、あるいは社内のモチベーション等々、BtoB企業には様々な課題が山積しているかもしれない。
BtoBブランディングの作業に取り組む際には、こうした課題に優先順位を付け「何をブランディングに期待するのか?」という共通認識をつくることから始めるべきだろう。
- コーポレートブランディング:企業イメージの訴求と共感醸成を目的としたブランディング
- ソリューションブランディング:顧客ニーズへのアピール目的としたブランディング
- 技術ブランディング:特定分野における技術の差別化を目的としたブランディング
そうすることで、これら3つのアプローチのどこに力点を置くのかが見えてくる。コーポレートブランディングは十分できているが技術ブランディングの視点が欠けているというケース、技術ブランディングは進めているがコーポレートブランディングが不十分でシナジー効果が得られていないといったケースもあるだろう。あるいは、まずは技術ブランディングにフォーカスした方が効果的だろうというケースもあるかもしれない。
ブランディングは経験がないからどうやって進めれば良いのか分からないというケースもあるかもしれないが、その際にはBtoBブランディングの十分な経験や知見を持ったブランドコンサルティング会社であれば、ゼロから相談に乗ってくれるはずだ。
II. ポジションを定める
ポジション(ブランドポジション)は、ブランディングの基盤となる工程だ。
送り手の心理としては、あれもこれも伝えたい、当社の強みを分かって欲しいと考えるのが自然だろう。しかし、受け手が認識できる概念は(特にBtoBの場合は)1つしか存在しないと考えた方が無難だ。受け手(顧客)の認識は、〇〇技術に強い会社、価格が高い(または安い)会社、熱心な会社など、ワンフレーズで片づけられるケースがほとんどだろう。少なくとも上司にはそう報告されることが多い。
ブランディングの役割は、顧客の記憶に「A社と言えば〇〇」、「〇〇といえばA社」というポジションを作ることにある。特にBtoBの場合にはポジションは1つしかないと考えた方がベターだろう。最終的にサプライヤーを決める場面では、(入札価格のみで決定される場面を除いて)どこかに秀でたサプライヤー、つまりある分野のトップ企業数社だけが、検討の俎上に残ることが多いはずだ。
つまり、際立ったポジションを受け手(顧客)の記憶に残すべくブランディングを進めるかどうかが、ブランディングの成否を分けると言っても過言ではない。そうでなければ価格で勝負するしか道はないだろう。
III. 鍵は、デザインにある。
BtoB企業にとっても、デザインはブランディングの鍵を握っており、ひいては企業の収益にも影響を与える経営テーマである。
“「デザイン経営」宣⾔“と題されたレポート(経済産業省・特許庁/2018年)では、「・・・BtoC企業のみならず、スリーエム、IBMのようなBtoB企業も、デザインを企業の経営戦略の中⼼に据えており、「デザイン経営」の実践企業・成功企業ということが⾔える。」と記されている。
“「デザイン経営」宣⾔”ではデザインの投資効果にも触れられており、同レポートには「デザインに投資すると、その4倍の利益を得られる」とする英国Design Councilの研究(※注7)や、「デザインを重視する企業の株価は、S&P500全体と⽐較して10年間で2.1倍成⻑」した(チャート 11参照)とする米国Design Management Instituteの研究(※注8)などが紹介されている。
技術の高度化・複雑化によって、BtoBにおける技術や機能性能の伝達が難しくなっていたこと、
グローバル化に伴い馴染みのない潜在顧客が増えていること、あるいはリクルートへの期待効果など、BtoB企業にとってデザインはかつてないほどに重要なテーマになってきていると言えるだろう。
IV. BtoBブランディングのステップ
私たちはブランドコンサルティング会社の立場から、次のステップでBtoBブランディングを進めることを推奨している。
Step1. 戦略づくり
どのようなアプローチでブランディングを進めるのか、どのような期待効果を狙い、どのようなフレームでブランディングを進めるのか、まずはそうした戦略づくりから始めることが必要だ。そのためには、顧客や業界動向の整理、海外も含めた競合/他社事例研究、社内での課題整理を行い、検討プロセスを含めブランディング統括または経営陣とその内容を共有することが求められる。
Step2. ブランドポジションの(再)設定
どういったポジションを目指すのか?それはブランディングの基盤となる重要なテーマであり慎重にかつ大胆に定める必要がある。チャレンジングなポジションを目指すべきなのに、判断材料が不足すると予定調和的に無難なポジションが選択されるケースも多い。
正しい判断を行うためには、当事者意識の高い中堅社員と外部のコンサルタントとのワーキングチームを形成することが大事だ。判断材料としては、企業イメージ/ブランドイメージの調査、取引先及び社内でのアンケートやヒアリングを通じた現状のポジションの認識、そのことのリスクとチャンスの検討、しかるべきブランドポジションの選択肢とシナリオを準備することが求められる。
Step3. ブランドスタイルの確定
社内外に発信するメッセージ、ビジュアルは、ブランディングの効果を大きく左右する。「メッセージやビジュアルは若い人の感性で選んでもらおう」と社内の若手社員の意見を重視するというケースがたまにあるが、それは意思決定をミスリードするリスクが高い。十分な選択肢とロジカルな検討を踏まえて、正しい選択を行うことが必要だ。
ブランドスタイルは、メッセージやロゴ、ブランドカラーだけではなく、統合的な(面としての)イメージを形成するための仕組みを意味する。ブランドスタイルを示す概念をキーワードとして定め、書体やカラーパレット(使用するカラーのリスト)、フォト(写真画像等)のスタイル、文章として表現するための口調・文体や構成、書体といった基本的なブランドスタイルのコンポーネントを定め、同時にこれらを効果的に示す表示ルールやレイアウトの指針など正しい運用を行うためのブランドガイドラインの準備も大切だ。
Step4. プロモーションとPDCA
どんなに良い準備ができても、効果的なプロモーションなしにはブランディングは成功しないことは当然だ。WEBサイトはその中心となることは間違いないだろう。グローバル化に伴い展示会の存在意義も増している。またコンテンツマーケティングの効果的な施策として着目を集めている。
ブランディング・プロモーションをどのようなメディアでどう進めるかは、業種や取引のフォーマットによって大きく異なる。どのような施策であれ効果測定とフィードバックを繰り返し、ブランディングの精度を高めていくためのPDCAを回していくことが重要だ。
(了)
<注釈>
※注6.SDGs(持続可能な開発目標):「持続可能な開発目標(SDGs)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標です。」(外務省ウェブサイトより)
⇒参照:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
※注7.Design Council “Design delivers for business”(2012)
⇒参照:https://www.idi-design.ie/content/files/DesignDelivers_for_Business_briefing.pdf
※注8.Design Management Institute “2015 dmi:Design Value Index Results and Commentary”
⇒参照:https://www.dmi.org/page/2015DVIandOTW/2015-dmiDesign-Value-Index-Results-and-Commentary.htm